西洋の敗北 第8章 米国の本質 寡頭制とニヒリズム

アメリカの社会的衰弱は人口学的に示されている。

平均余命に関して以下の表が参考になる。

2002年2014年2020年2021年
アメリカ78.8才77.3才76.3才
イギリス80.7才
ドイツ80.9才
フランス82.3才
スウェーデン83.2才
日本84.5才
ロシア65.1才71.3才

アメリカは1980年以降の新自由主義時代における経済成長の鈍化に続き、平均余命は低下している。

アメリカは先進国で唯一、平均余命が全体的に低下している国である。

ロシアに関してはプーチン政権下で驚くほどの伸びを示している。

乳幼児死亡率に関してもアメリカは同盟国ばかりでなく敵対している国に対しても遅れを示している。

アメリカ5.4人/1000人
ロシア4.4人/1000人
イギリス3.6人/1000人
フランス3.5人/1000人
ドイツ3.1人/1000人
イタリア2.5人/1000人
スウェーデン2.1人/1000人
日本1.8人/1000人

この人口学的に示されるアメリカの衰退は宗教を失ったアメリカの道徳の荒廃を伴っている。

アメリカの平均余命の低下と45歳から54才の白人男性の死亡率の増加は危険で中毒性のあるオピオイドの流通を原因の一つである。

2016年保健当局によるオピオイド使用の一時停止を禁止する「寒じゃアクセスの確保と効果的な医薬品施行法」がロビー団体の支配を受けた議会を通過した。製薬業界が市民を殺し続けることを認める法律を市民の代表が可決したわけである。

1955年ごろの権力エリート

すでにアイルランド、イタリアからのカトリック教徒、東欧、中央からのユダヤ教徒などがいたが、権力の中枢はWASP(ホワイト・アングロサクソン・プロテスタント)によって占められていた。WASPと言っても米国聖公会が過剰に多いエリート階級である。この私立学校の目的は学業成績への執着ではなく「人格」の形成にあった。

彼らは米国の道徳や厳格さを体現していた。彼らは超富裕層に最高90%の税率を課すことを躊躇しなかったのである。

プロテスタンティズム・ゼロ状態へ向かうアメリカ

宗教実践率の高さについて

  • 調査に対して回答者たちがかなり誇張して(つまり教会にしばしば通う、毎週通うなど)答えていたこと。
  • 1970年代から起こった福音派ブーム(ただし1990年代に終わる)カルヴァン派・ルター派は経済的、社会道徳を守ることを要求していたが、福音派はある種の退行をもたらした。すなわち、字義通りの聖書解釈、反科学的なメンタリティ、病的なナルシシズム。神は要求する存在ではなく、信者をおだて、心理的、物質的なボーナスを与える存在になってしまった。

しかし、アメリカのプロテスタンティズムの推移がいかに西ヨーロッパと同じだったかを理解する隔日は方法は出生率を見ればよい。

識字化した人口において、出生率の低下は宗教の対価を示す最も優れた指標で、カップルが神という権威の監視を感じなくなったことを示すからだ。下に各国の合計特殊出生率を示す。

1930年代1940年1960年1980年
アメリカ3.61.8
イギリス1.81.7
フランス2.11.9

脱キリスト教の完遂を示すもう一つの指標はホモセクシュアルに対する態度である。

1970年教会に通う人の50%がホモセクシュアリティを容認していた。

2010年には70%に至る。

教会にあまり通わない人々では容認率は83%にまで上がる。

宗教ゼロ状態の指標である同性婚について

2008年で、1946年以前に生まれた世代は22%のみが容認すると答えたのに対し、1966年から1990年に生まれた世代の50%が容認すると答えた。

フランスでは2013年に同性婚の合法化。イギリスでは2014年に合法化。アメリカでは2015年に連邦レベルで合法化。

人口学的指標から見た人々の宗教心は、アメリカはヨーロッパでは何も変わらないのである。

このような状況で2016年にトランプ大統領が誕生し、2022年にウクライナ戦争に関わることになる。

プロテスタンティズム・ゼロ状態と知性の崩壊

もう一度確認する。一世代のうち、20%から25%が高等教育を受けるようになると、「自分たちは本質的に優れている」という考え方が芽生え、識字率の向上によって「平等実現の夢」が「不平等の正当化」に変わっていくのである。

アメリカにおいては「高等教育を受けた人口が25%以上」という閾値に達したのは1965年であった。この進展はあらゆるレベルでの指摘衰退を伴った。

SATは言語能力と数学能力を評価する。

言語能力は1965年から1980年にかけて低下し、2005年以降さらに低下した。

数学能力は1965年から1980年にかけて低下し、1980年から2005年にいったん回復したが、2005年から再び低下した。

全米教育統計センターによる調査でも「13歳の生徒の読解力と数学のスコアが再び低下」ができの良い生徒も悪い生徒も、またすべての民族グループでスコアが低下したことが報告されている。

勉強時間も減少している。週平均の実勉強時間1961年には40時間だったが、2003年には27時間となっっている。

最近の研究でぇあ2006年から2018年にかけてアメリカ全土のIQも低下したことが明らかになっている。特に停会のスピードが速かったのは高等教育を受けていない人々だった。

教育こそ切り札の一つだったプロテスタンティズムの消滅はここでも示されている。

福音主義の普及は白人アメリカ人において(平均的な)カトリックよりも低い層と合致している。

プロテスタンティズム・ゼロ状態と黒人の開放

プロテスタンティズムはすでに述べたように人間の平等を信じていない。プロテスタンティズム・ゾンビ状態のアイゼンハワー政権下においても黒人は民主主義の中には含まれていなかった。この排除は核家族構造の人々によるプロテスタントによって建国されたアメリカ社会固有のものなのであって、システムの不完全さでもなければ、忘却でもないのである。

黒人排除こそがアメリカの自由民主主義を機能させていたのだ。最初はインディアン、次は黒人を「劣等人種」とし、不平等を固定化した結果アイルランド系移民、イタリア系移民の間でも平等になることができたのである。アイルランド、イタリアはカトリック教徒であるが、すぐに「アメリカの流儀」を身に着けた。これは移民がどの程度アメリカに同化できたかという指標となる。

人種差別とプロテスタンティズムは関連がある。アメリカ黒人の大半がプロテスタントであったという事実は、黒人プロテスタント教会が切り離された存在で黒人プロテスタンティズム自体が人種差異を制度化したものなのだ。

そして、宗教の崩壊は黒人解放につながっていく。ただし、この解放は黒人解放のために戦ったかつての慈悲深い上流、中流階級のプロテスタントによるものではなく、大衆の無意識、新オスにおける心理によるのだ。

教育の階層化がプロテスタンティズムの内部崩壊をもたらし、黒人たちを開放する。そして2008年ついに初の黒人大統領小浜が誕生する。

そして、黒人の開放は結果として、それまで黒人への差別によって生み出されていた白人の平等を打ち砕いたのである。

しかし、社会の階層化が進み、社会ピラミッドの下部にいる黒人たちは依然として下層に集中している。

刑務所・銃乱射事件・肥満

アメリカは「ロシアの専制政治」に対して「民主主義」を標榜しているが刑務所への収監率は世界で最も高い国である。

2019年住人10万人あたり収監率を比べてみよう。

アメリカ531人
ロシア300人
イギリス143人
フランス107人
ドイツ67人
日本34人

肥満は個人の精神構造に関する際立った特徴を教えてくれる。肥満は自己規律の欠如を示す。

2020年時点で体重過多の人口比率は41.9%である。BMI30以上で定義される肥満者は中等教育しか受けていない層が、それ以外よりも40%以上多い。

高等教育を受けた層ではアメリカはフランスの3倍である。

ロシアの権威的民主主義を「専制主義」と形容し、戦っているのはアメリカの「民主主義」ではなく、ニヒリズムによる「リベラル寡頭制」なのである。

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