1979年にクリストファー・ラッシュが「ナルシシズムの時代」を表した。そこでアメリカ文化の中心にナルシシズムが存在することを見抜いた。「先進諸国におけるアトム化」や「宗教とイデオロギーの崩壊から生まれた縮小した個人」という見解はこれを基にしている。
しかし、この見解は西洋社会の内部の現象をとらえるだけでなく、外交政策の理解も可能にする。
大悪党のロシアを罰したいの誰か?
制裁付きでロシアを非難した国はラテンアメリカの極小4か国とアメリカの同盟国、軍事的保護国だけである。→これが「西洋圏」
ベネズエラ、エリトリア、ミャンマー、シリア、北朝鮮→ロシアへの積極的支持
「制裁無し」でロシアを非難した国は西洋圏、ロシアいずれも選択していない。
ブラジル、インド、中国、南アフリカ→「非難しない」BRICS
BRICSは2009年貧しく、返済できるはずもない人々に不動産ローンを高い利率で貸し付けたアメリカの道徳性ゼロ、それに反応が遅かったヨーロッパの無責任に対抗してできた。
ウクライナ戦争はむしろBRICSの拡大につながった。2023年8月のヨハネスブルグでの首脳会談でサウジアラビア、アラブ首長国連邦、イラン、エジプト、エチオピア、アルゼンチン(のちに見送る)が加わった。
BRICSに加わっているのはそれぞれ地域の最強国である。
ロシアに制裁を求める西洋は世界人口のわずか12%でしかない。しかし、西洋圏はいまでも自分たちこそが世界の主だと考えており、道徳の優位性を信じている。
しかも戦争当初、10年以上ロシアよりも主要敵国とみなしていた中国が自分たちの味方になると信じていた。
ロシアは天然資源と労働で自活しているがゆえに、「非西洋」を経済的に搾取する手段、自らの文化を押し付ける手段を持ち合わせていない。
「非西洋」の最初の脱植民地化に大きく貢献したのはソ連であった。そして今日、多くの国が二度目の脱植民地化をロシアに期待している。
西洋による世界の経済搾取
搾取する「西洋圏(ここには日本も韓国も入っている)」と搾取される「非西洋圏」の」経済対立は民主主義対独裁体制ではない。ブラジル、南アフリカ、インドは議論の余地のない民主主義国である。
この搾取は資本家による搾取と捉えてはいけない。ローマ帝国の支配階級が奴隷を狩りながらローマ市民を従属的な平民に変えたことを思い起こさなければならない。
西洋のプロレタリアートは中国人や「非西洋」の人々の労働に大きく依存する「平民」と化したからである。
1980年ごろまで西洋圏の労働者は大半は自分たちが生産していたものを消費していた。
しかし、グローバリズムにより、工場は移転する。人々は外からの物を消費するようになったのだ。
左派政党とは「搾取される労働者階級」に支えられるものなのである。しかし、今は西洋のプロレタリアートは「(非西洋を)搾取する側」に回っているのである。これが国民の総右派傾向を後押ししている。
これが国内産業の再建がなぜこれほど困難なのかをも理解させる。もはや人々は本音では工場には戻りたくないのである。西洋圏では社会全体が搾取の恩恵を受けているのである。
これが非西洋の人々の見方なのだ。だからこそ、世界規模の搾取競争に参加せず、主権国家であり続けるロシアが「非西洋」に好まれているのである。
経済戦争から世界戦争へ
西洋はここでもグローバリズムと道徳ゼロの原則に沿って外交を展開している。
すなわち、低賃金の国に物を作らせる、コストは安い国に肩代わりさせる、である。
軍需品をウクライナに送っても、人員は送らない。ウクライナでは代理母出産が産業として成り立っていることに見られるように、人間の体は安いのである。
経済に関心を寄せるウォール・ストリート・ジャーナルは2023年夏の自殺行為でしかない「反転攻勢」
で切断手術を受けたウクライナの被害者数(2万から5万人)に最初に注目した。この被害でドイツでは義肢産業が復活したのである。
このような状況にあった時に「西洋圏」はロシアに対する経済制裁を他国に求めた。
当然同盟国には問題はない。
中立国には圧力となる。
そして、以前から潜在的に敵対していた国であれば制裁への参加要請自体が、対立を激化させる。これが現在起こっていることである。
「西洋圏」は禁輸、封鎖、オリガルヒなどを対象にした「個人に対する禁止処置」に参加することを世界に迫った。しかし、世界の大半の国々は採用しなかった。
むしろ、ロシアから石油、天然ガスを購入し機材や部品を供給してNATOを解体しようとするロシアを支援した。これほど広大な国土を持った国を封じ込めことなどできはしなかったのだ。
搾取者としての西洋圏を憎むのが非西洋の庶民というだけでなく、非西洋の支配層も西洋圏がオリガルヒたちの財産をおぼやかしていることに恐怖を感じたのである。
世界の人類学的多様性の否定
人類学的に双系制システムを持つ狭義の西洋(アメリカ、イギリス、フランス、スカンジナビア)では同性愛の開放、トランスジェンダー思想の発展である。これを認めることこそが「自分たちが道徳的に優れている」証拠だとこの国々は感じている。
しかし、非西洋の世界の大半は父系制の家族構造を持っている。
このように考えると、イラン、サウジアラビア、トルコのような国々のロシアに対する寛容さは人類学的に理解できる。共通の価値観を持っているのである。
ロシアのあらたな「ソフトパワー」
ホモフォビアの地図を見るとそれが父系制の地図と近似していることが分かる。西洋諸国はLGBT思想に敵意を示す国を後進的だと非難するようになっている。自らが近代的で、道徳的だと確信しているのである。しかし、父系制の世界では西洋の「道徳」自体が極めて「不道徳」であり、その「不道徳を押し付けようとしている」ことに反発しているのである。
ロシアの反LGBT法について西洋が非難すればするほど、非西洋社会ではロシアへの共感、支持が増えていく。
かつてロシアの共産主義はヨーロッパ、とくにイタリア、フランスの労働者階級の一部を、あるいは中国のように一国を丸ごと惹きつけたのであった。
しかし、一方でその無神論はイスラム世界を遠ざけたのである。
しかし、無神論を棄てた現在のロシアはすでにロシア社会において重要度を失ってしまった「正教会」を過大に演出することで、イスラム世界をも惹きつけることに成功した。ロシアのソフトパワーのおかげで、イスラム政党が率いるトルコや、原理主義的サウジアラビアはロシアとますます友好関係を構築することに戸惑う必要がなくなったのだ。
トランスジェンダーに関しては一層これらの国では受け入れられない。父系制の国々では父方と母方の親族に違いがあり、社会的に構造化されている。このような男女という対立概念が社会の根本を形成している場所において、「男は女になれる」「女は男になれる」ということが受け入れられるだろうか?
日本では最近通称「LGBT理解促進法」与党自民党内での大多数の議員の反対にもかかわらず通った。もちろんこれはアメリカの意向を汲んだ動きである。しかし、この法に対する反発は根強く、今後父系制社会の日本が双系制アメリカに近づいたのか?あるいは強大な保護国に従属させられた恨みが増すのか?いつか分かるであろう。
この「男は女になれる、女は男になれる」という不確定性は、精神の深いところにある不安定性であり、外交にも当然反映される。
すでに、アメリカはイランとの核合意も一夜にして制裁強化に転換した。ジョージアとウクライナはアメリカの「保護の約束」が現実にどんなものか、その身をもって知っている最中である。
おそらく、日本と台湾については、中国に対する「アメリカの保護」というのはもはや現実には存在しない。約束を守らない(約束を守るという心理的安定性さえない)のだから。
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