西洋の敗北 第10章 ワシントンのギャングたち

この章ではアメリカの指導者層について述べる。

WASPの終焉

現在のアメリカ政府、特にウクライナ戦争をつかさどっている重要人物にWASPは一人もいない。

ジョー・バイデンはアイルランド系カトリック教徒

ジェイク・サリバン(国家安全保障問題大統領補佐官)アイルランド系カトリック教徒

アントニー・ブリンケン(国務長官)ユダヤ人

ヴィクトリア・ヌーランド(国務次官)ユダヤ人の父とイギリス系の母を持つ。

ロイド・オースティン(国防長官)黒人カトリック教徒

黒人はアメリカ全人口の13%であるが、バイデン内閣では26%である。

上院では13.3%

下院では3%

政治機関以外では

ジャーナリストの6.4%

超富裕層の0.5%

名門大学ハーバード、イェール、プリンストンにおける学生人種別割合は

全人口中の比率3大学における比率
白人61%46%
黒人13.3%10%
ラティーノ20%16%
アジア人6%28%

白人はアメリカ全人口の61%いるが3大学では46%しかいない。この低比率はイギリスのようにいずれ知的分野における白人の優位性がいずれ消滅することを示している。

バイデンが大統領になった時、「アイルランド系カトリック教徒」ということは全く問題にならなかった。ケネディが大統領になった時カトリック教徒の大統領として大きく取り上げられたこととは全く違う。バイデンの宗教は全く関心を惹かなかったのである。そしてバイデンの側近にWASPはいなかった。

アメリカを支えたプロテスタンティズムの崩壊は、宗派の違いを消したが、それ以上に人種と教育の際も消した。そして宗教に非常に強く結びついていた人種差別も消したのである。

アジア系学生の高比率はアファーマティブアクションの結果ではなく、彼らの教育に対する強い活力に起因する。

本来教育に囲い込まない核家族構造のアメリカ・イギリスにおいて、プロテスタンティズムの崩壊は「教育重視」「努力尊重」という気風も同時に消した。その結果白人の学力は崩壊した。カトリック、プロテスタントに差異はなくなったのである。

一方、権威主義的家族構造のアジア系の子供たちは一世代から二世代の間この学力崩壊から免れてきた。さらに教育を神聖視する儒教の伝統も大きかった。

かつてWASPエリートは向かうべき方向や道徳的目標を体現する存在だった。今のエリートは何も体現していない。あるのは権力のダイナミズムだけで、それが対外政策に投影され、軍事力と戦争への偏愛として現れた。

プロテスタンティズム崩壊の道連れ ユダヤ教の崩壊

アメリカ全人口の1.7%がユダヤ人である。しかしバイデン政権下ではユダヤ人の比率は高い。著名なシンクタンク「外交問題評議会」の34人のメンバーの1/3はユダヤ人である。2010年フォーブスによるとアメリカの最も裕福な100人のうち、30%はユダヤ人だった。

こうした社会の上層部においてユダヤ人の比率が高いのは、その社会の人口全体の教育水準の低さにある。ユダヤ教の教育熱心さがこうした社会では際立つのだ。1800年から1930年の中央・東ヨーロッパと同じである。

近年のアメリカにおけるユダヤ人勢力の相対的な台頭は、プロテスタントの教育的関心の衰退の帰結なのである。

しかし、アジア系アメリカ人の教育熱が勢いを増し、ユダヤ人の強豪時手の不在という事態は終止符が打たれる。

  • ベビーブーム時代アイビーリーグ大学でユダヤ人は21%いたが、30歳以下では4%である。
  • ニューヨーク市において5人のユダヤ人議員、1人のユダヤ人市長、2人のユダヤ人行政区町、14人の市議会議員がいた。今はユダヤ人議員は2人、1人のユダヤ人区長、6人のユダヤ人市議会議員しかいない。

長い間、教育を優遇する宗教によって優位に立ってきたユダヤ系アメリカ人はアメリカ社会にうまく同化した結果、彼らもまた、信仰を失ってしまったのだ。そしてその結果として教育に対する熱情も失っていったのである。

ユダヤ人の同化は混交婚から確認できる。

1980年以前に結婚したユダヤ人のうち、非ユダヤ人と結婚したのは18%だった。

2010年から2020年の間に結婚したユダヤ人のうち、非ユダヤ人と結婚したのは61%に上った。

現在のアメリカにおけるユダヤ人の影響力は宗教的価値観に裏打ちされた高い教育力によって担保されてきた。そして、アメリカにおけるキリスト教の崩壊の道連れのようにユダヤ人の信仰も崩壊し、一方で、権威主義的な家族構造とともに、教育を神聖視する儒教の影響から教育を家族で伝承していこうとするアジア系に道を譲っていき始めている。

早晩、ユダヤ人は差別によるのではなく、自らの信仰の崩壊によって以前ほど力を振るわなくなっていくだろう。

ワシントンという村

指導者階級であるWASPは自らの解体に取り組み、カトリック、ユダヤ人、アジア人、ラテン系、黒人を開放した。

1945年から1965年のアメリカでは個人的きずなで結ばれた均質で首尾一貫したエリート集団に指導されていた。彼らは兵役と税金を義務として受け入れ、自由の用語を基軸とした責任ある外交政策を展開していた。(ラテンアメリカは例外である。)
だが、信仰の崩壊は進み、集団を束ねる感覚自体を失うに至った。ただ、個人個人をつなぐものは何もなく、ただ、一人ぼっちの(アトム化された)個人が、自分と、自分が直接所属する地域集団や職業集団の内部的な力だけに動かされる。

彼らはもはや外部の価値観、特に上位の価値観としての宗教、道徳、歴史を参照しないのである。

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